気丈な母から笑顔が消えた

私の母はとても気丈な人でした。
ちょっと遅い結婚で、ちょっと裕福な家柄から、農家の本家へ嫁いできました。
父は農家の本家の長男。両親揃いしかも、まだ所帯を持たない兄弟が同居という家に戸惑ったようです。母は私に「私の時代は「おしん」のようだった」とよく言っていました。
姑である祖母は、私にとっては優しい「おばあちゃん」でしたが、母にしてみれば、きつい姑だったようです。
私が物ごころつくと、二人がそれぞれにお互いの悪口を私に聞かせました。「おばあちゃんがね・・・」「お前のかあさんがね・・・」というふうに。
私は慣れっこ。軽く流すことが出来ました。
そんな二人だったのに、祖母が怪我をしたのをきっかけに寝たきりになり、そのまま認知症を発症し、会話らしい会話が出来なくなって半年後に亡くなってしまいました。
母はそんな祖母を看取り、これからは自由に出歩けると口では言っていたのですが、最近よく耳にする○○ロスとでもいうのでしょうか、生き生き出来るはずの母がガクッと元気がなくなってしまったのです。
やはり四六時中共に過ごした祖母の空気が感じられなくなって、お茶を飲むにも、食事をするにも気が抜けてしまったようでした。
それでも、近所の人や、親類の叔母達が気にかけてくれ、昼間私たちがいない間、様子を見てくれたおかげで、また元気を取り戻しました。
それからは、近所の仲間と踊りや温泉に出かけていくようになったのです。
ですが、それもつかの間。
ある日買い物に行こうと外に出たところ、前から車がスピードを出して迫ってきたのを避けようとした時に、側溝に足をとられてしまって転んでしまいました。
それが引き金になり、またふさぎ込んでしまいました。
母としては、ちょっとよけようとしただけなのに、転んでしまって情けないという思いがあったようです。
その情けないという思いから後に「うつ」と診断されてしまいました。
朝早くから、ラジオをイヤホンで聞きながら、布団に座り針で縫物をしたり、編み物をしたり、短歌や俳句を書いて、ラジオなどにハガキで投稿したり自分の時間を楽しんでいた母。
家事と農作業と、三人の子供の世話に、祖母と叔父の世話。
本当に気丈に生きていましたが、その気丈を保つ糸がプツンと途切れてしまったようでした。
ラジオを聞いてはケタケタ笑っていた笑顔が無くなり、小さい体でシャカシャカ家事をこなしていたのに、掘りごたつにへなっとへたり込んで座ってボーっとしている。
○○する?と聞いても首を横に振るだけ。
○○食べる? 首を横に振るだけ。
しゃべる気力もなくなってしまった。
日ごとに沈み方が深くなるので、心療内科の受診を進めました。
本人も何で動けないのかと思っていたのでしょう、すんなり受け入れ素直に受診しました。
そして下った診断は「うつ病」でした。
いくつかの薬を処方されて飲み始めました。
すると、ずーっと眠ってしまいました。数日間続いたと思います。
一時は薬で死んでしまったのかと心配しました。
薬で神経を休ませるという薬だったようです。少しはいいのかな?と思えど、ほとんど症状に変化はない。
家族としては、本人の話に耳を傾けて、その話に否定も肯定もしてはいけないと指導を受けましたが・・・家族もなかなか改善しない症状にいらだちがありました。
はっきり目には見えないけれど、少しずつ少しずつ改善し、起きだして動くようになったと思うと、また何かの具合で気分が落ち込む。という繰り返し。
病院に行けば、薬がドンドン増える。
しまいには、食事の時、箸を持つ手がガタガタ震えてご飯はおろか、おかずなど箸で掴むという行為が出来ない。
すると入院です。
点滴を何日かすると、また元気になる。
退院と入院の繰り返し。
ある時、また入院し前日私が洗濯物を届けた時には、「じゃまた明日仕事が終わったら来るね」と帰宅したのに、翌日病院に行くと病室が変わっていて、看護師にたずねると
「○○さん、今日突然、点滴の針を抜いて、ベッドから走り出してしまって、その後病室を移して様子を見ている」というのです。
その病室に行ってみると、昨日の母の様子からは全く想像できない姿でした。
両腕を点滴を抜かない様にと縛り付けられ、何かうわ言をずっと言っていて。
私は、病院で治療に使っている薬の副作用だと思いました。
すぐに担当の医者に合わせてほしいと依頼し、話を聞きましたが、認めることはなかった。
逆に医者は「過去にパーキンソンと診断されたことはないか、とか、なんだとか、いろいろ言い出しはぐらかしました。」
私と兄は病院に泊まり込み、意識が混濁したまま手足が硬直するなどしました。
毎日マッサージし、話しかけるなどし続けました。
それから2週間くらいしてなんとか意識が戻り、手足も少しづつ動くようになり、無事退院しまた元の生活がおくれるようになりました。
うつ病の薬で副作用があるという話は良く効きます。
今は薬も進化し良くなっているとは思いますが、過剰な投薬もまだあるとも聞きます。
心の病だけに本人しか分からないことも多い中での治療は本当に困難だとは思いますが母のように本来の病気で苦しみ、更にその治療のための薬で苦しむ姿は見るに堪えないものがありますよね。
ストレスの多い世の中です。どうかすべての人が苦しむことがない世の中になって欲しいですね。、